「会社はCopilot、現場はClaude」は本当か - 調査データで検証する企業AIツールのズレと解消の道筋

「会社はCopilot、現場はClaude」は本当か - 調査データで検証する企業AIツールのズレと解消の道筋

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企業の生成AI導入について、次のような話をよく耳にします。

  • 大企業では、使ってよい生成AIを Microsoft Copilot に限定しているところが多い
  • 一方で、従業員は Copilot を好まず、Claude や Codex(あるいは ChatGPT)を使いたがっている

実感としてうなずく人は多いと思いますが、本当にそうなのでしょうか。この記事では、この仮説を公開されている調査データで検証し、そのうえで、ズレがあるならなぜ生まれるのか、企業はこのジレンマをどう解消すべきかを考えます。

先に断っておくと、調べた結果は「仮説どおり」でも「仮説は誤り」でもありませんでした。半分は当たっていて、半分はデータで裏付けられない、というのが結論です。

結論の先出し

仮説判定主な根拠
大企業の多くは Copilot を導入している当たっている米国の従業員5,000人以上の企業で Copilot の承認・利用は73%で最多。Microsoft は Fortune 500 の90%超が Microsoft 365 Copilot を使っていると公表
大企業の多くは Copilot だけに限定している裏付けなし(むしろ逆)同じ調査で、全社の主力プラットフォームを1つに絞っている最大規模の企業は27%。過去1年で44%がプラットフォームを追加
従業員は全社標準のツールに満足していないおおむね当たっている国内の調査で、全社標準ツールの利用者の83.0%が「実務レベルに達していない」と感じることがあり、70.3%が標準以外のツールを併用
従業員は Copilot を嫌っている断言できない嫌悪を直接測った調査は見つからない。不満は Copilot に限らず全社標準ツール全般に向いている
開発者は Claude Code や Codex を使いたがっている当たっている開発者調査で Claude Code の業務利用が GitHub Copilot を上回り、Codex も急伸

以下、順に見ていきます。

仮説1: 「大企業は Copilot に限定している」

Copilot が最も広く入っているのは事実

Microsoft は2026年4月の公式ブログで、Fortune 500 の90%超が Microsoft 365 Copilot を使っていると書いています(Microsoft 公式ブログ, 2026-04-21)。2026年7月の決算説明会では、Microsoft 365 Copilot の有料席が3,000万を超え、5万席を超える顧客の数が前年比で7倍超になったと説明しています(FY26 Q4 決算)。

ただし「90%超が使っている」の「使っている」の定義は示されていません。一部の部署での試験導入も含まれうるので、「Fortune 500 の9割が全社で Copilot を使っている」という意味ではない点に注意が必要です。

第三者の調査でも、大企業での Copilot の強さは確認できます。Morning Consult が2026年7月に米国の企業の意思決定者3,003人に行った調査(State of Enterprise AI, 2026-08-03)では、「承認済み、または利用中」の AI プラットフォームの割合は次のとおりでした。

プラットフォーム従業員5,000人以上1,000〜4,999人全規模
Microsoft Copilot73%82%45%
Google Gemini47%74%55%
ChatGPT Enterprise44%72%48%
Anthropic Claude20%記載なし記載なし

国内でも傾向は似ています。SDEパートナーズが2026年3月に従業員300人以上の企業で生成AIを業務に使う会社員1,014人に行った調査(PR TIMES, 2026-06-08)では、全社標準ツールの導入シェアは Microsoft Copilot が45.3%、ChatGPT が45.0%、Google Gemini が28.3%でした。Copilot が1位ではあるものの、ChatGPT とほぼ同率です。

しかし「Copilot だけ」ではない

同じ Morning Consult の調査は、仮説の後半とは逆の結果も示しています。

  • 全社で主力のプラットフォームを1つに絞っているのは、従業員5,000人以上の企業で27%にとどまる
  • 過去1年でプラットフォームを追加した最大規模の企業は44%、減らしたのは5%
  • 今後12か月で承認するプラットフォームを増やす見込みの最大規模の企業は56%

上の表でも、Copilot・Gemini・ChatGPT Enterprise の割合を足すと100%を大きく超えます。大企業の多くは複数のプラットフォームを承認しているということです。「Copilot に限定している企業が多い」という状況を裏付けるデータは、今回の調査では見つかりませんでした。

実感とのずれが生まれる理由としては、「全社員に配られているのは Copilot だけ」「ほかのツールは一部の部署や申請者だけ」という企業が多いことが考えられます。一般の社員から見れば Copilot しか使えない状態でも、会社全体としては複数のツールを承認している、という構図です。ただしこれは推測で、配布範囲まで分けて測った調査は見つかっていません。

仮説2: 「従業員は Copilot を嫌い、Claude や Codex を使いたがる」

全社標準ツールへの不満と併用は確かにある

SDEパートナーズの同じ調査では、全社標準ツールの利用者に「機能や精度が実務レベルに達していないと感じることがあるか」と尋ねたところ、「頻繁に感じる」24.3%と「たまに感じる」58.7%を合わせて83.0%に達しました。「全く感じない」は2.0%です。

さらに、全社標準ツール以外を「日常的に併用している」30.0%と「特定の業務で併用している」40.3%を合わせると70.3%でした。併用しているツールは ChatGPT 51.3%、Google Gemini 41.2%、Microsoft Copilot 30.1%、Anthropic Claude 19.4% の順です。

この数字は仮説を支持しているように見えますが、注意点があります。

  • 「実務レベルに達していない」の対象は全社標準ツール全般で、Copilot に限った数字ではない(全社標準が ChatGPT の会社も45.0%ある)
  • 併用先にも Copilot が30.1%入っている。全社標準が ChatGPT の会社で、Copilot を併用している人もいると読める
  • 課題の筆頭は「社内システム・ツールとの連携」で、特定ブランドの好き嫌いというより、業務への組み込みが進んでいないことへの不満と調査元は考察している

つまり、データから言えるのは「会社が一律に配ったツールと、現場が実際に使いたいツールにズレがある」までで、「Copilot が嫌われている」までは言えません。

個別の事例: Amgen と Microsoft 社内

Bloomberg は2025年6月、「ChatGPT Wows Office Workers. That's a Problem for Microsoft」という記事で、製薬大手 Amgen の事例を報じました。Amgen は約2万人分の Copilot 導入を発表していましたが、1年後には従業員が調査や文書の要約で ChatGPT を使うようになっていた、という内容です(記事は有料のため、本記事では各メディアの紹介で内容を確認しています)。同じ記事では、Copilot は Outlook や Teams と組み合わせる用途では引き続き重要なツールだとも伝えられています。

開発者の側では、Microsoft 自身の事例があります。Microsoft の研究者が2026年7月に公開した論文「Adoption and Impact of Command-Line AI Coding Agents」によると、Microsoft は2025年末から一部の部署や個人に Claude Code を提供し、2026年1月からは自社の GitHub Copilot CLI も社内に広げていました。論文には、観測期間が終わった2026年4月末のあとに「大半のエンジニアの Claude Code のライセンスを約1か月後に終了し、Copilot CLI へ移行する」という社内告知が出たことも書かれています。

この件は「Microsoft の社員ですら Claude Code を使いたがった」と紹介されることがありますが、論文の中身はもう少し複雑です。

  • 1つのツールだけを使った人で比べると、マージされたプルリクエスト数の伸びは Claude Code が +11.4%、Copilot CLI が +24.9% だった
  • どちらのツールについても、満足度を数値で測った結果は載っていない。アンケートの自由回答には、どちらも「驚くほど良く、さらに良くなっている」という声がある
  • 著者は全員 Microsoft の社員で、GitHub が Microsoft の子会社であることが結果に影響した可能性を論文自身が認めている

ライセンス終了の理由について、報道ではツールの統一・コスト・人気などの説明が分かれており、公式な理由は確認できていません。

開発者では Claude Code が首位に

一方、開発者向けの調査では、はっきりした傾向が出ています。

JetBrains の調査(2026年8月公開、2026年5〜7月実施)では、世界の職業開発者のうち業務で Claude Code を使っている人は39%で、2026年1月の18%から倍増しました。米国では47%です。GitHub Copilot は1年前の29%から21%に下がり、Codex は1月の3%から16%へと約5倍に伸びています。

Stack Overflow Developer Survey 2026 の AI コーディングエージェントの利用(回答者12,255人)でも、Claude Code が66%、GitHub Copilot が59%で、上位2つがこの2製品です。

開発の現場に限れば「Claude Code や Codex を使いたがる」は、調査データでも裏付けられます。ただし、ここでも GitHub Copilot が使われなくなったわけではなく、Stack Overflow では59%が利用しています。

なぜズレが生まれるのか

データを踏まえて、全社標準ツールと現場の利用がずれる理由を整理します。ここからは考察です。

1. 選ぶ基準が違う

情報システム部門やセキュリティ部門がツールを選ぶ基準と、現場の従業員が選ぶ基準は異なります。

会社が重視すること現場が重視すること
既存の契約・ID基盤(Microsoft 365、Entra ID)に乗るか回答の質、文章の自然さ
アクセス権限・秘密度ラベル・監査ログがそのまま効くか最新のモデルや機能がすぐ使えるか
データが学習に使われないか、どこで処理されるか自分の業務(コード、調査、資料作成)にどれだけ効くか
全社員に配れる価格か使い慣れているか(家で使っているもの)

Microsoft 365 Copilot は、左側の基準に強いツールです。Microsoft は Copilot の Enterprise Data Protection として、既存の権限や秘密度ラベル、保持ポリシー、監査がそのまま適用されること、データを基盤モデルの学習に使わないことを説明しています。すでに Microsoft 365 を全社で使っている企業にとって、追加の審査が少なく全社に配りやすいのは自然です。

一方、現場は右側の基準で選びます。Bloomberg の記事が指摘するように、多くの人は会社が Copilot を入れる前に、家で ChatGPT を使っていました。慣れたツールのほうが使いやすく感じるのは当然です。

2. 「一律配布」と「業務への組み込み」は別物

SDEパートナーズの調査で課題の筆頭が「社内システム・ツールとの連携」だったように、全社にライセンスを配っただけでは、個々の業務の流れには組み込まれません。汎用のチャットとして使う限り、どのツールでも「物足りない」と感じる場面は出てきます。その不満が、より使い慣れたツールや、より新しいツールへの併用につながっていると考えられます。

3. 開発は変化が速く、差が出やすい

コーディングの領域は、ここ1年で「補完」から「エージェントに作業を任せる」へと使い方そのものが変わりました。こうした領域では、最新のツールとそうでないツールの差が体感しやすく、評価も短期間で入れ替わります。JetBrains の調査で Claude Code が半年で倍増し、Codex が5倍になったのは、その表れです。全社標準を年単位の契約で決める調達のサイクルでは、この速さに追いつけません。

二者択一ではなくなりつつある

ここで押さえておきたいのは、「Copilot か Claude か」という二者択一そのものが崩れつつあることです。「Copilot」は製品のブランド名で、中で動くモデルは選べるようになってきています。

Microsoft 365 Copilot の中の Claude

  • 2025年9月24日、Microsoft 365 Copilot の Researcher エージェントと Copilot Studio で Anthropic の Claude モデルを選べるようになりました(Microsoft 365 ブログ)。
  • 現在は Anthropic が Microsoft のサブプロセッサーとして扱われ、商用クラウドのほとんどの顧客で Anthropic のモデルが既定で有効になっています。EU/EFTA と英国は既定で無効です(Microsoft Learn)。

ただし同じページには、Anthropic のモデルは現時点で EU Data Boundary と国内処理のコミットメントの対象外だと明記されています。「Copilot の中で使うなら、Claude も Copilot と同じデータ条件になる」とは限らないということです。

日本の企業が気にする国内処理についても、Microsoft は当初「2025年末までに日本で Microsoft 365 Copilot の国内処理を提供する」と発表していましたが、その後の更新で日本は2028年の予定とされています(Microsoft 365 ブログ)。「Copilot なら国内で処理されるから安心」という前提で選んでいる場合は、確認が必要です。

GitHub Copilot の中の Claude と Codex

GitHub Copilot では、Anthropic の Claude と OpenAI の Codex をコーディングエージェントとして使えるようになっています。2026年2月4日に Copilot Pro+ と Copilot Enterprise でパブリックプレビューが始まり(GitHub Changelog)、2月26日には Copilot Business と Pro にも広がりました(GitHub Changelog)。既存の Copilot の契約の中で使え、Enterprise では管理者がエージェントごとに有効・無効を設定します。

つまり、契約やガバナンスの窓口は GitHub Copilot に一本化したまま、開発者は Claude や Codex のエージェントを選べる、という形が取れるようになっています。GitHub Copilot のエージェント機能についてはコーディングエージェントの記事、料金体系の変化は使用量ベースの課金の記事で書いています。

禁止だけではシャドーAIは消えない

ズレを放置したり、承認外のツールを一律に禁止したりすると、何が起きるでしょうか。

Microsoft の Work Trend Index 2024 では、AI を使う人の78%が自分の AI ツールを職場に持ち込んでいる(BYOAI)と報告されています(Microsoft WorkLab)。会社が認めていないツールを従業員が使う「シャドーAI」です。

IBM の「Cost of a Data Breach Report 2025」では、5組織に1組織がシャドーAIを原因とする侵害を報告しており、シャドーAIの多い組織は少ない組織に比べて侵害のコストが平均で67万ドル高かったとされています。AI の管理やシャドーAIの検知のためのポリシーを持つ組織は37%にとどまります(IBM Newsroom, 2025-07-30)。

現場が「標準ツールでは仕事にならない」と感じたまま禁止だけを強めると、利用は止まらず、見えない場所に移るだけです。個人アカウントで社内の資料を貼り付けるほうが、承認済みの企業向けプランで使うよりはるかに危険です。

企業はどう解消すべきか

以上を踏まえ、ジレンマを解消するための考え方を提案します。データから直接導けるものではなく、筆者の考察です。

1. 「1社に限定」から「用途別の承認」へ

Morning Consult の調査が示すように、大企業はすでに複数のプラットフォームを承認する方向に動いています。全員に同じツールを配ることと、全員が同じツールしか使えないことは別の話です。

層対象例
全社の基盤全従業員既存のグループウェアに統合されたアシスタント(Microsoft 365 Copilot など)
専門業務開発・研究・企画などコーディングエージェント、高度な調査や分析向けのツール
評価枠申請した部署や個人新しいツールを期間と範囲を決めて試す

全社の基盤は管理しやすさを優先し、専門業務には成果を優先したツールを用意する、という分け方です。

2. ツール名ではなく、データの条件で線を引く

「Copilot は可、Claude は不可」のようにブランドで線を引くと、前述のように Copilot の中で Claude が動くようになったとき、ルールが実態と合わなくなります。代わりに、次のようなデータの条件で承認の基準を決めておくほうが長持ちします。

  • 入力したデータがモデルの学習に使われないか(企業向け契約か)
  • データの保持期間と、ゼロデータリテンションの可否
  • シングルサインオン(SSO)と、アカウントの自動管理(SCIM)
  • 監査ログを取れるか、既存の監視基盤に連携できるか
  • データがどの地域で処理・保存されるか

同じ製品の中でもモデルによってデータの条件が違う場合があるので、承認は「製品」ではなく「製品とモデルと設定の組み合わせ」で確認する必要があります。

3. 承認までの道を速く、見えるようにする

シャドーAIの多くは、「正規のルートで申請すると何か月もかかる」ことから生まれます。評価の基準を公開し、申請から試用開始までの期間を短くすれば、従業員が個人アカウントに逃げる理由は減ります。従業員が実際にどのツールを使いたがっているかは、禁止して隠れさせるより、申請の形で表に出してもらうほうが把握しやすくなります。

4. 席数ではなく、成果で効果を測る

全社にライセンスを配ったこと自体は成果ではありません。SDEパートナーズの調査では、経営層は現場に比べて全社標準ツールへの不満が少なく、認識に差がある可能性が示されています。どのツールが本当に効いているかは、業務の成果に近い指標で測る必要があります。

Microsoft の論文は、マージされたプルリクエスト数という指標で Claude Code と Copilot CLI の効果を比べました。指標そのものには限界がある(品質や難易度を測っていない)と論文自身が書いていますが、「どちらが人気か」ではなく「どちらで成果が上がったか」で判断しようとする姿勢は参考になります。

5. 開発者には選択肢を、窓口は一本に

開発の領域は変化が速く、半年で評価が入れ替わります。特定のツールに固定するより、GitHub Copilot のエージェント機能のように契約と管理の窓口は一本にしたまま、中のエージェントやモデルを選べる仕組みを使うのが現実的です。Claude Code や Codex を直接契約する場合も、企業向けプランの管理機能(SSO、監査ログ、利用ポリシー)を前提にすれば、統制と選択肢は両立できます。Claude Code の機能の変遷はバージョン履歴の記事、Codex CLI は入門記事にまとめています。エージェントを全社で管理する仕組みについては Microsoft Agent 365 の記事も参考になります。

まとめ

  • 大企業で Copilot が最も広く承認・利用されているのは事実。ただし「Copilot だけに限定している企業が多い」を裏付けるデータは見つからず、大企業の多くは複数のプラットフォームを承認し、さらに増やす方向にある
  • 全社標準ツールへの不満と、標準以外のツールの併用は国内調査でも確認できる。ただし不満は Copilot に限らず全社標準ツール全般に向いており、「Copilot が嫌われている」とまでは言えない
  • 開発者のあいだでは Claude Code が業務利用で首位に立ち、Codex も急伸している。この部分は仮説どおり
  • ズレの背景には、会社と現場の選定基準の違い、一律配布と業務への組み込みの差、開発領域の変化の速さがある
  • Copilot の中で Claude が、GitHub Copilot の中で Claude と Codex が使えるようになり、二者択一は崩れつつある。ただしモデルによってデータの処理条件が異なる
  • 解消の方向は、用途別の承認、ブランドではなくデータの条件で線を引くこと、承認の道を速くすること、成果で測ること、窓口を一本にしたまま選択肢を持たせること

「会社はCopilot、現場はClaude」という構図は、半分は実態で、半分はブランドの印象から来ています。問うべきは「どのブランドを選ぶか」ではなく、「どのデータを、どの条件で、どの業務に使わせるか」です。

参考リンク

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