
Deno チームが Cloudflare に合流 - ランタイムは1年、Deno Deploy は6か月で終了へ
ランタイムを替えても使い続ける TypeScript の基礎固めに。
Durable Objects が解こうとしている分散の課題を理論から。
状態とストレージをどこに置くかを考える定番書。
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2026年10月9日、Deno の作者 Ryan Dahl が「Deno is joining Cloudflare」を公開し、Deno のチーム全員が Cloudflare に合流すると発表しました。同じ日に Cloudflare のブログにも、Cloudflare の Kenton Varda と Ryan Dahl の連名で同じタイトルの記事が出ています。
ニュースとしての重みは「Cloudflare がまたひとつ JavaScript の基盤を取り込んだ」ことよりも、Deno ランタイムの開発があと1年で終わると明言された点にあります。この記事では、両社の発表に書かれていることを一次情報として整理し、書かれていないことは書かれていないと明記したうえで、いま Deno を使っている人が確認しておくべきことをまとめます。
発表の要点
- 発表日: 2026年10月9日(Deno 公式ブログと Cloudflare 公式ブログに同日掲載)
- 何が起きたか: Deno のチーム全員("the entire Deno team")が Cloudflare に合流
- 狙い: Deno が開発した celld と、Cloudflare Workers のランタイム workerd を統合し、Workers と Durable Objects を自前のインフラでも動かしやすくする
- Deno ランタイム: あと1年、毎月バグ修正とセキュリティ修正のリリースを出し、その後は開発を終える。オープンソースのまま残し、引き継ぎたい人を歓迎する
- Deno Deploy: 6か月運営したあと停止。有料顧客には Cloudflare Workers への移行支援がある
- JSR: 運営を継続し、インフラを Cloudflare に移す
- rusty_v8: サポートを続け、workerd への組み込みを目指す
NOTE
両社の本文では「acquire(買収)」という語は使われておらず、表現は一貫して「joining(合流)」です。一方で Cloudflare のブログ記事には「Acquisitions」タグが付いています。報道では「Cloudflare が Deno を買収」と書かれることが多いものの、取引の形態や金額は公式には書かれていません。この記事では公式の表現に合わせて「合流」と書きます。
何が続いて、何が終わるのか
Ryan Dahl の記事は、各プロダクトの扱いを箇条書きで具体的に示しています。それを表にまとめると次のとおりです。
| 対象 | 公式に書かれていること | 書かれていないこと |
|---|---|---|
| Deno ランタイム(CLI) | 1年間、毎月のバグ修正・セキュリティ修正リリース。その後は開発終了。オープンソースは継続 | 正確な終了日。新機能の追加有無 |
| Deno Deploy | 6か月運営したのち停止。有料顧客の Cloudflare Workers への移行を支援 | 正確な停止日。無料ユーザー向けの移行手順 |
| JSR(パッケージレジストリ) | 運営を継続。インフラは Cloudflare に移る | 運営主体やガバナンスの変更 |
| rusty_v8 | サポート継続。workerd への組み込みを目指す | - |
| celld | workerd に統合する(Ryan Dahl と Bert Belder が主導) | 統合後の名称や時期(「今後数か月で追加の発表」とだけある) |
| Fresh / @std/* / Deno KV / Deno Sandbox / Subhosting | 言及なし | 継続か終了か |
「1年」「6か月」はどちらも発表日(2026年10月9日)からの期間として書かれているので、単純に数えるとランタイムの開発終了は2027年10月ごろ、Deno Deploy の停止は2027年4月ごろになります。ただしこれは計算した目安であり、公式の日付ではありません。
Deploy については、2026年7月20日に旧版の Deploy Classic(dash.deno.com)と Subhosting v1 API が終了しています(Deno Docs の移行ガイド)。これは今回の発表とは別の出来事なので、混同しないよう注意してください。
なぜ合流するのか: celld と Durable Objects
発表の中心にあるのは、Deno ランタイムでも Deno Deploy でもなく、celld という比較的新しいプロジェクトです。
Durable Objects とは
Cloudflare の Durable Objects は、「SQLite のデータベースを持つ、名前で呼び出せる小さなサーバー」を大量に立てられる仕組みです。Ryan Dahl は Cloudflare 側の記事で、これを "distributed singleton with a SQLite database"(SQLite を持つ分散シングルトン)と表現しています。
- 1つの Durable Object は世界に1つだけ存在し、ID で呼び出せる
- JavaScript の実行は単一スレッドなので、排他制御を考えずに状態を更新できる
- 手元の SQLite に同期的にアクセスでき、WebSocket も扱える
チャットなら「チャンネル1つにつき Durable Object 1つ」にするだけで、データも WebSocket 接続も自然に分割(シャーディング)されます。Ryan Dahl は、Node.js を発表したときのデモが単一サーバー・単一スレッドの IRC サーバーだったことに触れ、「複数のマシンへの分割を最初からプログラミングモデルに組み込めないか」という問いの答えがこれだった、と書いています。
workerd に足りなかったもの
Cloudflare Workers のランタイム workerd はすでにオープンソースで、本番と同じコードです。ただし Durable Objects については単一インスタンスでしか動かないという制約がありました。Kenton Varda 自身も、これが「workerd が本番で使えるようになるうえでの最大の穴」だったと認めています。Cloudflare 本番の Durable Objects のルーティングは、数百の拠点と多数の外部サービスを前提にした大がかりな実装で、自前で運用したい人向けではないからです。
celld が埋めるもの
celld(GitHub)は、Deno が開発した Rust 製のデーモンで、Workers と Durable Objects を自前のマシン群で分散して動かすためのものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 言語 / ライセンス | Rust / Apache-2.0 |
| 構成 | 単一バイナリ。外部依存は S3 互換のオブジェクトストレージ1つだけ(GCS・Azure Blob も可) |
| 互換性 | 既存の wrangler.json をそのまま読み込む |
| 対応する機能 | Workers、Durable Objects、KV、Queues、D1、R2、Workflows、Cron、静的アセット(Containers は実験的) |
| 状態 | ベータ。最初のリリース v0.1.0 は2026年8月5日、執筆時点の最新は v0.6.2(2026年10月7日) |
Ryan Dahl は Deno Deploy を運用した経験から「複数のパブリッククラウドと複数のデータベースが絡み合う」インフラの複雑さを痛感し、celld では逆に "one binary, written in Rust, with object storage as its only external service dependency" を目指したと書いています。
Cloudflare 側から見ると、celld は「Workers のアプリを Cloudflare の外へ持ち出せる道具」です。Kenton Varda は記事の大半を、「Workers は顧客を囲い込むために独自仕様にしている」という見方への反論に充てています。Shopify などの大口顧客は、Workers のランタイムがオープンソースでなければ採用できないと言っていたこと、実際に workerd を使って Cloudflare から離れた顧客もいること、それでも逃げ道を用意するほうが商売として得だ、という主張です。そのうえで、自前運用のための周辺ツールを十分に作ってこなかったことを認め、celld をその穴埋めとして歓迎しています。
AI エージェントとの関係
Ryan Dahl は、celld が Durable Objects に絞っている理由として AI エージェントを挙げています。安価なサーバーレス実行、永続的な状態、WebSocket、高水準の JavaScript インターフェースがそろう Durable Objects は、エージェントの実行基盤(agent harness)に向いている、という見立てです。記事の最後は「エージェントを大規模に自前のインフラで動かしたい人は連絡してほしい」という呼びかけで締めくくられています。
Deno のこれまでと、今回の位置づけ
Deno は、Node.js の作者である Ryan Dahl が「Node.js の設計で後悔していること」を出発点に作ったランタイムです。2018年の JSConf EU での講演「10 Things I Regret About Node.js」で発表され、TypeScript をそのまま実行できること、権限を明示しないとファイルやネットワークに触れない安全側の既定、フォーマッタ・リンター・テストランナーまでそろった一体型のツールチェーンを特徴としてきました。
Deno 2.0 は2024年10月9日のリリースで、Node.js と npm への互換性を大きく進めた版です。今回の発表はそのちょうど2年後にあたります。2026年に入ってからも2.7(2月)、2.8(5月)、2.9(6月)と順調にリリースが続いており、執筆時点の最新は v2.9.7(2026年9月17日)です。当ブログでも Deno 2.7 の Temporal API 安定化を取り上げたばかりでした。
Ryan Dahl の記事は、Deno から Deno Deploy、そして celld へという流れを「サーバーを作ることをもっと単純にする」という一貫した目標の延長として説明しています。そのうえで「別のランタイムとホスティングを開発し続けるのではなく、共有のプラットフォームに今後の開発を注ぐ」と決めたこと、そしてそれが Deno の上に構築してきた人にとって重大な変更だと分かっていることを率直に書いています。
開発ツールの統合が続いている
2026年は、JavaScript の開発基盤が大手に取り込まれる動きが目立つ年になりました。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年1月 | Astro の開発会社が Cloudflare に合流(Astro 公式ブログ) |
| 2026年6月 | Cloudflare が Vite・Vitest・Rolldown・Oxc の VoidZero を買収(当ブログの解説) |
| 2026年10月 | Deno のチームが Cloudflare に合流(本記事) |
同じ流れとして、Bun の Anthropic による買収もあります。Hacker News の議論でもこの「統合が続く流れ」を指摘する声が多く、Cloudflare の狙いを問う質問に Kenton Varda 本人が「celld と workerd の統合」と「逃げ道があるほうが良い商売になる」と答えています。
VoidZero のときは「Vite などは MIT のままベンダー中立を保つ」と明言されていました。一方、今回の Deno はランタイム本体の開発を終えると明言されている点で性格が異なります。ツールを残して中立を約束した VoidZero とは違い、Deno のケースはチームとその技術を Workers の土台に振り向けるための合流だと読むのが自然です。
コミュニティの反応
GitHub では、発表を受けて次のような動きが出ています。
- denoland/deno#36995: フォークして開発を続けるという表明がいくつか出ています。あわせて、既存リポジトリでのリリース権限、Deno の名前で資金を集めてよいか、管理権を移せるかといった質問が Cloudflare に向けて出ています。執筆時点で公式の回答は確認できていません。
- denoland/deno#36998: ランタイムの開発継続を求める要望です。
- denoland/std#7355: 標準ライブラリ(
@std/*)の今後を問う issue です。Discord でのやり取りの転記はありますが、発言者や公式の根拠は確認できません。
フォークはいずれも有志によるもので、公式に後継として認められたものはありません。Deno 本体は MIT ライセンスなので、フォーク自体は自由です。ただし大規模なランタイムを継続的に保守するのは簡単ではないので、どこかが後継になるかどうかは、今後の Cloudflare の回答と貢献者の動きを見て判断することになります。
いま Deno を使っている人が確認しておくこと
公式の発表時点では、Deno から Node.js・Bun・Cloudflare Workers へ移る公式の移行手順や FAQ は出ていません(Deno Docs と Cloudflare Docs を確認した範囲。Deno Docs の /runtime/migrate/ は Node.js や Bun から Deno へ移る逆方向の内容です)。以下は公式の手順ではなく、移行先を検討するときの確認項目として書いています。
1. どこで Deno を使っているかを棚卸しする
まず影響範囲を把握します。
- Deno Deploy で動いている本番サービス: 期限が一番短いので最優先です。有料プランなら Cloudflare Workers への移行支援の対象になります。
- CLI ツールやバッチ: ランタイムは1年間セキュリティ修正が出るので、すぐに壊れるわけではありません。
deno compileで配布している単一バイナリ: 移行先で同じことができるかを確認します。- CI やエディタの設定:
deno fmt/deno lint/deno testを使っている箇所です。
2. 機能ごとに移行先の候補を当てる
Deno の一体型ツールチェーンは、移行先では別々のツールに分かれることが多いです。主な対応関係の例を挙げます。
| Deno の機能 | Node.js での主な代替 | 補足 |
|---|---|---|
.ts の直接実行 | type stripping(v22.18.0 / v23.6.0 で既定有効、v24.12.0 / v25.2.0 で安定) | enum など「消せない型」は不可。詳しくは Node.js 26 の記事 |
権限モデル(--allow-*) | Permission Model(--permission。v22.13.0 / v23.5.0 で安定) | 既定では無効で、フラグで有効にする方式 |
deno test | node:test(v20.0.0 で安定)、または Vitest | 比較は Vitest と Playwright の記事 |
deno compile | Single Executable Applications(Stability 1.1、v25.5.0 で --build-sea を追加) | まだ安定版ではない |
deno fmt / deno lint | Prettier / ESLint、Biome、Oxlint など | |
jsr: インポート | JSR の npm 互換レイヤー | 下記参照 |
Node.js 以外では、Bun も TypeScript の直接実行や、bun build --compile による単一バイナリ化を備えています(Bun の Rust 書き換えの記事)。Bun も Anthropic の傘下に入っているので、特定の企業に依存したくないという理由で Deno を選んでいた場合は、その点も判断材料になります。
3. JSR のパッケージは Node.js からも使える
JSR は運営継続と発表されています。もともと npm 互換レイヤーがあるので、Deno をやめても JSR のパッケージは使い続けられます。
# pnpm 10.9+ / Yarn 4.9+ はそのまま jsr: を指定できる
pnpm add jsr:@luca/cases
# npm や Bun、それより古い pnpm / Yarn は JSR の CLI を経由する
npx jsr add @luca/casesnpm 経由で入れると、package.json には npm:@jsr/luca__cases@^1.0.1 のような形で記録され、.npmrc も作られます。JSR の公式ドキュメントは、この .npmrc をリポジトリにコミットするよう案内しています。
4. Workers に移るなら、celld も視野に入る
Deno Deploy から Cloudflare Workers に移る場合、ベンダーへの依存が増えることを気にする人もいるでしょう。今回の発表は、まさにその懸念に対する Cloudflare の答えでもあります。workerd はすでにオープンソースで、celld はすでに wrangler.json を読み込んで自前のマシンで動かせます。両者が統合されれば、「普段は Cloudflare で動かし、必要なら自前のインフラに移す」という選択肢が現実的になります。ただし celld はまだベータで、統合の時期も「今後数か月で発表する」とされている段階です。
まとめ
- 2026年10月9日、Deno のチーム全員が Cloudflare に合流すると発表された。公式の表現は「joining」で、Cloudflare は Acquisitions タグを付けている
- Deno ランタイムは1年間の毎月のバグ修正・セキュリティ修正リリースのあと開発を終える。オープンソースは継続する
- Deno Deploy は6か月後に停止し、有料顧客には Cloudflare Workers への移行支援がある。JSR は運営を継続する
- 狙いは celld(Durable Objects を自前のマシンで分散実行する Rust 製デーモン)を workerd に統合し、Workers を自前でも運用しやすくすること
- Fresh・@std・Deno KV・Subhosting などの今後と、Deno から外へ移る公式の手順は、執筆時点では公式に書かれていない
当面の優先順位は、Deno Deploy で動いているものの移行先を決めることです。ランタイムには1年の猶予があるので、Node.js の type stripping や Permission Model、JSR の npm 互換レイヤーの状況を確認しながら、計画的に移行先を選ぶのが現実的です。公式から移行手順や Fresh などの扱いが発表されたら、この記事にも追記します。
参考リンク
- Deno is joining Cloudflare(Deno 公式ブログ, 2026-10-09)
- Deno is joining Cloudflare(Cloudflare 公式ブログ, 2026-10-09)
- celld 公式サイト / denoland/celld(GitHub)
- cloudflare/workerd(GitHub)
- Durable Objects(Cloudflare Docs)
- denoland/deno Releases(GitHub)
- Announcing Deno 2(Deno 公式ブログ, 2024-10-09)
- npm compatibility(JSR Docs)
- Permissions / Single executable applications / Test runner(Node.js Docs)
- Deno Deploy の移行ガイド(Deploy Classic の終了について)
- denoland/deno#36995 / denoland/deno#36998 / denoland/std#7355
- Hacker News の議論
- The Astro Technology Company joins Cloudflare(Astro 公式ブログ)


